招待講演
講演者:
櫻井圭記(株式会社サラマンダーピクチャーズ)
講演内容「アニメ最前線 – 日本よりAIをこめて」
株式会社サラマンダーピクチャーズの櫻井氏により、映像制作、特にアニメにおける生成型AIについての講演をいただきました。生成型AIがアニメ制作にどのように活用できるか、どのようなことが期待されているのかという内容についてまとめます。
まず、現在の制作場の課題について述べられました。大きな問題として、進行中の人手不足の問題が明らかになりました。そこで、生成型AIを用いることによって人手不足を解消するための試みが説明されました。実際に生成型AIを用いて作成した映像を参照しながら、以下の四つの活用の可能性が挙げられました:
- 背景美術
- スタイルトランスファー
- 動画
- 4K解像度
背景美術については、YouTubeに公開されている『犬と少年』という映像を用いて説明されました。この映像の背景は、最終的に手書きで修正されたものもありますが、全てAIによって生成されています。背景に生成型AIを用いたことで、通常15人程度必要な作業が2人まで削減されました。これにより、AIを活用することで作業の効率化が可能であることが示されました。人員不足解消において生成型AIの活用は有効であるとされ、全てを解決するつもりはないが、30%でも楽になればと考えられています。
次に、スタイルトランスファーについてです。GauGAN2やStable Diffusionという生成型AIを用いて、写真から深度情報を抽出し、美術監督のアートタッチを学び、加筆修正することが可能になるとのことです。この機能は人が描いた絵にも適用できます。この機能を用いることで、コマ送りで細部まで着目すると違和感はあるものの、通して見れば違和感のない映像を作成できるとされました。この方法で、本来5人が行う仕事を1人で行えるようになりました。
その後、動画と4Kアニメについての話がありました。動画においては、中割りという作業に生成型AIを用いることで効率化を図る試みが行われています。アニメーターの仕事として、コマとコマの間の絵を描くことを中割りと呼びます。この工程を生成型AIが担うと、商用レベルに近い画像が出力されるレベルに達しています。4Kアニメについては、4Kの絵を描くことの困難さについての話がありました。実際に4Kアニメの映像や試作過程の話を聞き、4Kの大きさの絵を描くことは「学校の校舎に絵を描いている気分だった」という印象的な表現がされました。通常より大きな絵を描くことは困難を増大させるため、AIを用いた作成が解決の足がかりとなることが期待されています。
最後に、生成型AIの懸念点として、特にアメリカにおける生成型AIへの風当たりの強さが挙げられました。日本ではあまり目立たないものの、海外ではかなり深刻な状況にあるとのことです。特にアメリカでは、肯定派であっても意見を表明する際には否定派からの反発に遭うリスクがあります。このような状況では、双方の歩み寄りや理解の促進が重要であるとされました。
口頭質問
質問として、「クリエイティビティや知性とは何なのか?」という深い問いが投げかけられました。この問いに対する回答として、「知性はどこが最後に残るか」というテーマが提起されました。議論の過程で、技術がまだ達成していないことこそが人間の知性の本質であるという考えが浮上しました。つまり、手の届かないところに知性のゴールが移り変わっていくのではないか、という視点が示されました。
さらに、「犬と少年」に関して「AIというものに対する印象と最も遠いイメージのストーリーにするために、敢えてハートウォーミングな内容にした」という話がありました。この議論で特に興味深かったのは、日本人が比較的AIに寛容であるという点です。これは、幼少期からドラえもんや鉄腕アトムのような優しいキャラクターに親しんできたことが影響しているのかもしれない、という視点が提起されました。
これ以降の質問は第二部の対談の中で答える形となりました。
感想
アニメ制作に携わる方々の生成型AIに対する考えを聞く、貴重な機会となりました。私がこれまで生成型AIに関して目にしていたのはSNS上の情報がほとんどでした。しかし、今回実際の制作者がどのように考え、具体的にどのようにAIを活用しているのかを学ぶことができました。特に、AIを使用して制作された映像が示された際には、AIの可能性に驚かされました。生成形AIを用いたアニメを見た後、止まった一枚絵を見せていただくことで、画像生成AIの活用法をより理解することができました。
また、反対意見に関するストライキなどの問題点も取り上げられ、解決すべき点が複数存在することが明らかになりました。(清野@関西大学大学院)
対談企画
パネラー:櫻井圭記×小沢高広×相澤清晴
第二部では、アニメや漫画におけるAIへのスタンスや活用方法を、櫻井氏はアニメ監督の立場から、小沢氏は漫画家の立場から、相澤氏は研究者の立場から議論を行いました。小沢氏による漫画家のAI活用方法と、第一部での櫻井氏によるアニメに対するAIの活用方法を元に様々な議論が行われました。
漫画家によるAIの活用法
漫画家の小沢氏により、漫画を描くに当たって有用な生成系AIの活用法が紹介されました。主に、「ストーリー」「ネーム」「作画」の3点でAIは活用されています。「ストーリー」「ネーム」の部分では、漫画の設定や翻訳・キャラデザイン・ロゴの生成を行い、漫画制作に役立てているそうです。「作画」では、主に背景描画に用いられており、トレスするための背景の生成に活用されています。これにより、現実には存在しない風景をトレスすることが可能になりました。
議論:AI活用の各業界の反応
漫画やアニメ業界では、AI活用に好意的かどうかという議論が発生しました。どちらの業界においても、現場においてはAIの活用は好意的に捉えられていることがわかりました。
漫画においては、ストーリーを書く人が作画を行えるようになり、漫画家業への道が開けるという意見が出ました。また、逆にストーリーの考案にも役立てることができ、生成系AIの活用により、クリエーションの幅が広がると考えられます。一方で、イラストレーターのような、一枚一枚の絵を売る方々に対しては、画風のコピーに繋がるため、利益を損ねるという意見も出ました。しかし、一枚の絵に対する作業時間の短縮につながるなど、イラストレーターの能力の拡大につながるというポジティブな意見も見られました。
アニメにおいては、作画の中割り(動きと動きのつなぎの作画)の生成により作業の効率が向上するという意見が出ました。これにより、作品に関わる人数が減ることで、自身のクレジットの価値が高まり、やりがいの増加につながるという意見も見られました。しかし、視聴者からの理解が得られていないという問題点も指摘されました。スクリーントーンやデジタル作画が登場した当初も、「手抜きである」や「ずるい」という意見から、中々受け入れてもらえないという問題があったようです。これと同じ「ハンドメイドが至高」という風潮が起こるのではないかと危惧する意見もありました。
議論:アニメと漫画のストーリー構成の違い
その他の議論として、アニメと漫画のストーリー構成に違いについて語られました。これらの議論により、コミック工学とアニメは分けて考えなければならないのではないかという意見が出ました。
漫画とアニメのストーリー構成の違いとして、終わりがわかっているかどうかという点が指摘されました。漫画は連載の終了時期がわからないため、伏線を回収するだろうという予定で置くそうです。しかし、アニメは明確に終了が決定しているため、必要な伏線のみしか存在しません。また、メディアの形態が、空間的か時間的かという違いも指摘されました。漫画は簡単に読み返すことが可能ですが、アニメはそうではありません。これらの違いから、アニメと漫画では、その性質の違いからストーリー構成の考え方が大きく異なることがわかりました。コミック工学研究会では、コミック工学の一部としてアニメを扱ってきましたが、コミックとアニメは性質が大きく異なることがわかったため、研究会の名前を変えるべきなのではという意見も見られました。
感想
AI活用に対する反感は読者や視聴者の方が大きいという意見はとても新鮮でした。スクリーントーンやデジタル作画の導入の際にも同じことが起こったと聞き、AI活用による利点を世間に周知させる必要性を感じました。
漫画とアニメのストーリーの構成の違いも非常に面白い議論でした。扱っている題材は共通していますが、それに対するアプローチは異なっており、分析や支援の方法も全く異なるものが必要なのではないかと感じました。(田所@関西大学大学院)
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