研究会 開催報告

コミック工学研究会 第6回研究発表会・コミック工学シンポジウム 参加報告

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こんにちは,明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科中村聡史研究室の櫻井翼,伊藤理紗です.

2021年11月20日と21日にオンラインにて行われた,コミック工学シンポジウムおよび第6回コミック工学研究会に参加しました.その報告をここに記します.予稿集はこちら

コミック工学シンポジウム

ここでは,11月20日に開催されたコミック工学シンポジウムについての報告をいたします.シンポジウムでは,漫画家の皆さんをゲストに迎えたトークイベントと,コミック工学に関わるライトニングトークが実施されました.

トークイベント

登壇者

  • 太田垣康男 先生
  • ひうらさとる 先生
  • 冬乃郁也 先生
  • 妹尾朝子 先生

モデレーター

  • 山西良典 先生(コミック工学研究会副主査)
  • 小沢高広 先生

第1部「教えて,先生」

コミックを対象とした研究では,しばしばコミックコーパスから制作者の意図や傾向を見つけることを目的とするものがあります.しかし,これは「車輪の再発明」になっていないでしょうか.例えば,漫符(効果音表現)のフォント選択や回想や場面転換などの表現技法などからの意図推測は,コーパスを作成してそこから意図を読み取るのではなく,どのような意図に基づいてデザインしているのかを聞くことで,一定の答えをその制作者である漫画家に尋ね,その知見を元にして処理するほうが効率が良かったり,観点ズレが防げたりするかもしれません.また,ある漫画家の表現技法を他の漫画家が見たときに意図を汲み取れるか,ということも興味深いトピックです.そのような観点から,制作者だからわかることや,ある作品の表現上の工夫について最前線で活躍されている漫画家を交え,議論を行いました.

作品を作る際の思考過程

どのように構図を考え,描き進めていくのかについてお伺いしました.

  • 太田垣康男 先生

動画とコマ割りがほぼ同時に浮かび,音や色はついていない白黒のサイレント映画のような感じ.しかし,映画ではなく見開きの画面で再生される.

  • ひうらさとる 先生

見開きコマで思い浮かぶ.しかし,思いついたコマ割りのみだと定まったものになってしまうため,他作品を参考にしていくことで自分では思いつかないコマ割りを発見でき,バリエーションが生まれる.また,視聴したドラマ作品の影響もある.

  • 冬乃郁也 先生

フルカラー・音楽や効果音もある状態の動画で浮かび,カット割りまでされているときもある.動画からそれぞれの瞬間を切り取り,コマにはめ込んでいく形で作成する.

などといったように先生によって様々でした.特に冬乃先生はフルカラーかつ音もついた動画が脳内で再生されるそうで,興味深いなと感じました.

途中で冬乃先生が提案された「ネームを描く体験」の紹介がありました.同じ脚本に沿ってそれぞれでネームを描いてみようというものです.この脚本は研究目的であれば利用可能ですので,ぜひ皆さんも描いてみてください.

実際モデレーターの山西先生や妹尾先生,小沢先生,冬乃先生が描いたネームを見ながら議論しました.プロの漫画家さんである妹尾先生,小沢先生,冬乃先生は大まかなコマ割りが共通しており興味深かったです.

キャラクターベースで制作するのかエピソードベースなのか

作品を書くときにキャラが動くという表現を聞くことがありますが,実際のところどうなのかお伺いしました.

妹尾先生・小沢先生

  • シチュエーションや設定が先に決まっていて,その後キャラクターデザインや登場キャラクタの決定を行うこともある
  • 試合やどのような感情になるかは決まっているが,どちらが勝つか決まっていないことがある

また,このテーマにも関係することとして個人的にとても印象に残っているのが「描いている間に我に返ることはあるか」という質問に回答していた時のことです.皆さん我に返ることがあり,プロットで提出したものと結末が違う場合や,話が終わってしまう場合があるそうです.

話が終わってしまう場合や手詰まりになってしまった時には,解決策を考えるそうですが,妹尾先生は「一巻から読み直してみて伏線を拾う」と仰っていました.皆さんこれには同意していらっしゃって,

伏線ははるものではない、拾うものだ!

という名言が生まれました.

今までコミックを読んでいて,「こんな初めから伏線をはっていたなんて!」と驚くことが多々ありました.そんな伏線はもしかしたら作家さんが苦しみながら拾ったものだったかもしれないと思うと,遠くに感じていた作家さんが少し身近な存在に感じられました.(伊藤)

第2部「10年後の漫画制作環境を夢想するーー私の考える最強の漫画制作ツール」

第2部では,制作者の視点からコミック工学研究で実現してほしい技術についてのお話を伺いました.しかし,単純に「コミック工学で実現してほしいこと」という問いでは,回答を得ることがむずかしいと思われるため,ComicStudioやPhotoshopなどを使ってデジタルで作画を行う漫画家も一般的になってきていることを踏まえ,「10年後にそういったマンガ制作環境でどこまでできるようになるか」という視点を持ってもらい,「こんなことが10年後には出来てるといいな」といった内容についての議論を行いました.

AIに何を期待するのか

ひうら先生

  • 事務的な作業(スケジューリングなど)や校閲(指が一本多い,夜が昼になっているなどの矛盾点の発見)をして欲しい

妹尾先生・ふゆの先生

  • 絵を描くなどはAIにお願いしたくない.楽しみの部分ではない箇所を担当してほしい
  • 編集者さんから指摘されると嫌なことはあるけど,AIからの指摘なら許せる(罪悪感も反発もなく,ちがうよ!って却下できるため)

太田垣先生

  • 9割の技術をAIが理解して支援できれば,漫画家志望はかなり助かる
  • 編集者の中には感性で語って破綻する人が多いため,技術論としての漫画を編集者に身につけさせたい

といったように,漫画を描く際の直接的な支援よりも,漫画を描く過程での部分的なサポートであったり編集者の仕事に関する意見が多くありました.また本議論の導入では,

AI編集者が欲しい!!

といった声もありましたが,これは決して編集者さんがいらないと言っているわけではなく,作家の感性を表現するための,編集者によるお手伝い(漫画を描くための技法提案や論理的なサポート)の質を向上させる考えによるものでした.

漫画家さんは編集者の意見を否定することもあるが,そこからアイデアが出ることもあるため相談相手や論理的なサポーターとしての編集者は傍にいて欲しいといった意見が多くとても興味深かったです.

ストーリーの具現化において、早くたくさん良いものを描き続けるには?

ストーリーは時間的、コマは空間的な表現方法に広がっていくものだが,具体的な制作の過程で求める技術やデバイスに必要なものがあるのかといったことについて伺いました.

小沢先生・ひうら先生

  • 自分のキャラクタのパターンを3Dで作れるようになれば楽になりそう
  • 漫画上の絵を簡単に操作できると便利
  • 枠線や背景といった作業が大変

特に,枠線や背景を描く作業が大変なことについては皆さん共感しており,背景に関しては使い回しや一部で共有を行っていたりするといったお話もありました.これを踏まえて,背景をオープンソース化し,地図上でマッピングされている部分の背景が利用できるといったサービスの提案がなされていました.また,インターフェースとして,年代やジャンル(少女コミック,青年コミックなど)に合わせた世界観での背景も選択できるようにするといったことや,単純に資料写真やモデルがあるだけでも良いといったように様々な意見が挙げられました.

最後に,

これが奪われたら漫画家の仕事はできない,またはこれがあれば仕事ができるというものは?

という質問を伺いました.これに対しては,

「漫画家が描いたネームから,自動で漫画へ変換してくれるような機能があると良い」(太田垣先生)といったことや,

「自分で絵が描きたい.絵を描く部分が奪われると困ってしまう.ただ,描きたいところだけ描ければ良いので,”だれか何か埋めといて” といった繋ぎのシーンはある」(妹尾先生・冬乃先生)

のような意見があり,漫画家さんによって描きたい内容や重視することは異なっており,それ以外の部分はテクノロジーの力で便利にして欲しいといった考えがあるように感じられました.

漫画家さんは,漫画を描くことに長けた技術者であるのは当然ながら,その技術を活かすための論理的な構成であったり,何を表現したいのかといった部分が重要であるといったことが今回のお話で強く感じられました.また,それらを行うために編集さんと相談したり,重点を置いていない作業工程を減らしていくことで,今後はより表現者としての側面が大きい仕事へと漫画家はなっていくのではないかと思いました.(櫻井)


ライトニングトーク

第3部「Work in Future」

第3部では研究の種やアイデアを共有するためのライトニングトークを行いました.漫画やアニメを見ていてこんなことを思いついたんだけど出来ないかな?手法の検討もついていないしデータがあるかもわからないけれど,こんなアイデア一緒にやりたい人いないかな?といった発表を,立場を問わずしていただく時間です.

迎山和司先生:2ページの漫画を描くAI

タイトルの通り,「人工知能画家・静11号」という見開き2ページの漫画を描くAIを開発されていました.このシステムでは,キャラクター2名のセリフを入力すると表情や構図を自動で決定し,漫画を描いてくれます.コマについては,縦長の形状だと時間が短く,横長の形状だと長く感じるといった情報を学習させることを考えているそうです.

AIのべりすとを使って得たセリフをこのシステムの入力として与えることで,セリフさえもAIに任せることができる,というのが面白くもあり,良い技術のコラボレーションだと思いました.また,展望で語られた背景の自動化などが進むことで今後さらにAIに任せることのできる範囲が広がっていきそうだと感じました.(伊藤)

澤田和弥様:シーン構成検討によるネーム制作支援の提案

自身が漫画を描いており,その際に一番大変なのがネームの工程だそうです.ネームは表現したいシーンをどの分量で描写するか決める必要があり,何度も修正する中でシーンの省略や追加が行われます.そこで,シーンを管理し,全体のページに対して描画する量を検討するシステムを開発されていました.このシステムでは考えたシーンの中から必要なものを選択し,何ページに渡り描画するかを設定したり,そのページに何を描くのか記述することができます.今後はタブ分割などの機能を追加することを検討しているそうです.

ネームという漫画を実際に描く方ならではのテーマだなと思いました.ネームを作る際の苦労をお聞きして,私達が普段何気なくみる漫画は多くの時間と労力をかけて描かれているということを改めて認識しました.また,開発されたシステムでは,シーンの長さを調整する際にマウスで選択して伸ばす,といったような直感的な操作が可能な点が魅力的だと感じました.(伊藤)

山田大誠様:コンテンツビジネス的視座からみたコミックの特徴

漫画は静止画であるにもかかわらず圧倒的満足感を得ることのできる高い視覚的表現力のあるコンテンツです.コンテンツビジネス的視点から考えると,例えばアニメを制作する際に原作コミックがあれば,その原作の売上が面白さや人気を証明しており,一定の視聴者を獲得できると想定されます.よって,低リスクな原作を創造するメディアととらえることができます.また,漫画は様々なジャンルの作品があり,ニッチなニーズにも応えるメディアであると述べられていました.

コミックとはどういうものなのか?について,コンテンツビジネス的視点から考えられている興味深い発表でした.ニッチなニーズに応えるという項目の中で,マイナージャンルが好きな人でもリッチな作品を楽しむことができると仰っていて,共感するとともに改めてコミックの魅力に気づかされました.(伊藤)

簗瀬洋平様:漫画脚本のためのゲームデザイン

アニメ・漫画の世界には何かしらのルールが必ず存在する.例えば,DEATH NOTEという作品には「このノートに名前を書かれた人間は死ぬ」といったルールがある.このように,物語の展開において”驚き”や”予想通り”といったバランスを設定するには,たとえどんなにシンプルだとしてもルールは必要なものとなってくる.このトークでは,ルールから構成されるコンテンツとしてゲームを取り上げ,ゲームのルールを設定することで物語を構成することができるのではないかといった検証を行った.具体的には,シミュレーションゲームにおけるパラメータ設定をVBAを用いて実装し,そのパラメータ(アイテム数)の推移を観察することで物語を構成するというものであった.

このトークでは,歴史シミュレーションゲームやRPGといった基本的なゲームの設定は考えているが,中身である物語については一切手を加えておらず,プログラムによって行われる完全にランダムな処理に任せている.これにより,自分の頭では想像の付かないようなちょっと意外な結果であったり,面白くない結果であれば何度もやり直すといった形で,主要な部分は考えて,それ以外は任せてしまえる部分がとても面白いと思いました.また,物語を自動で構成し「シナリオはAIに書かせた」というカッコいいフレーズも生まれていました.(櫻井)

中村剛士先生:ドラゴンクエストの呪文における音象徴の調査

音象徴とは,音そのものが特定のイメージを喚起する事象であり,今だ未解明な部分が多い分野である.本トークでは,音象徴事例としてドラクエの呪文を取り上げ,ドラクエの呪文から呪文クラス(火炎系・冷気系)の推定を行う分類器を構成することで調査を行った.調査では,ドラクエの呪文の音響特徴量456次元を用いて攻撃呪文か防御回復呪文かの2クラス分類を行い,約80%の精度で分類を行えることが確認された.また,ドラクエの呪文は音響的に分類しやすいデザインで音象徴性が強いことや,呪文の文字列前半が分類に重要な影響を与えていることが考察として挙げられた.今後は,ドラクエ未プレイ者を対象に人の主幹による分類を行う予定である.

実際,自分もドラクエの呪文の意味は分からずとも感覚的なイメージとして捉えられているという経験は多く,これらに音響的な分類しやすさに関する結果が出ていることにとても納得がいきました.また,それらの呪文名を考えた,デザイナさんの言葉選びの凄さを改めて実感しました(櫻井)

感想

研究会には参加させていただいたことがあるのですが,シンポジウムに参加するのは初めてでした.私が読んだことのある著名な漫画家さん達のお話をweb越しですが生でお聞きすることができ,感動しました.特に漫画を描く際のアイデア発想や構図,キャラクターの動きを決める際のお話は,私自身が漫画を読んでいるときに「こんな面白い話,どうやって思いつくんだろう?」などと不思議に思っていたところでもあったので,興味深かったです.ライトニングトークも着眼点やアイデアの鋭いものが多く,1日があっという間に感じるほど楽しい時間でした.またシンポジウムが開催されることを楽しみにしています.(伊藤)

自分は研究会やシンポジウムといったことに参加すること自体が初めてで,今まで味わったことのないとても充実した2日間でした.普段の読者としての立場からすると,漫画家さんというのはかけ離れた存在であるうえ,まさか今回登壇されたようなプロフェッショナルな先生方のお話が聞けるとは思ってもいませんでした.今回のシンポジウムを通して,漫画を作る側としての思いや制作過程での技術的側面のお話を生で聞くことができ,読者側としての漫画の捉え方が変わるような刺激を受けました.またこのような機会があることを願うとともに,その際はぜひ参加したいと思いました.(櫻井)

-研究会, 開催報告

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